(解説)化粧品に使われているPFASについて、週刊金曜日2021年10月22日号の記事を元にアップグレードしました。
成分表示の見方
PFAS(有機フッ素化合物)が身近に使われ続けている一例として、化粧品に使われるPFASの実態について報告します。
PFASが使われる化粧品の種類としては、ファンデーション、化粧下地、口紅、マニキュア、コンシーラー、日焼け止めなどが挙げられます。
PFASを配合する理由は、皮脂や汗による化粧崩れの防止や、シリカやマイカといった無機鉱物のパウダーや顔料が広く行きわたるようにする表面処理剤としての使用です。
2016年の京都大学チームによる国内の化粧品に使われるPFASの研究論文では、化粧崩れ予防に多く使用される成分として以下の4つの成分が指摘されていました。
- 1)フルオロ(C8-18)アルコールリン酸
- 2)フルオロ(C9-15)アルコールリン酸
- 3)パーフルオロアルキルリン酸DEA(ジエタノールアミン)
- 4)パーフルオロオクチルトリエトキシラン
その内1)~3)については、2015年位までは花王やカネボウ、コーセーなどでも使われていたようですが、今回筆者の調べた範囲では国内の化粧品には使用されなくなっています。成分の中にすでに禁止されたPFOSとPFOAを比較的高濃度に含む可能性があるためです。
ただ4)のパーフルオロオクチルトリエトキシランは、まだ規制のないC6系のPFAS(PFHxSなど)が主であるため、花王やポーラ、ノエビアなど多くのメーカーのファンデーションで使用されていることが分かりました。
またシリカや顔料を行きわたらせるための表面処理加工のための成分については、
- 5)パーフルオロアルキル(C4-14)エトキシジメチコン
- 6)トリフルオロアルキルジメチルトリメチルシロキシケイ酸
などが指摘されていますが、5)は花王の化粧品、6)は資生堂の化粧品などで使用されてることが確認できました。
こうした名称をいちいち覚えるのも大変ですね。化粧品の表示を見て避けるには、「~フルオロ~」の言う文字が含まれている成分にはPFASが使用されている可能性が高いとみて避けるということが現実的でしょう。
ただ海外のNGOグループ調査では、無機鉱物パウダーとして「シリカ」や「マイカ」としか成分表示がないものでも、実はPFASの表面処理がされていて、分析するとPFASが検出されるケースもあるのだそうです。
化粧品中のPFASはどの程度皮膚から浸透するか?
では、PFASを含む化粧品を肌に使用した場合、どの程度体内に浸透するのしょうか?2018年にデンマーク政府が、さまざまなPFASを含む化粧品からの体内ばく露について報告書を発表しています。
その報告書によると最もばく露量が高かった化粧品はコーンシーラーでした。皮膚に塗ったPFASの70%が浸透すると仮定して計算したところ、1日でのばく露量は体重1kg当たり29.6ng(ナノグラム)になると報告されています。
どの程度のばく露量なら安全かを示す耐容一日摂取量(TDI)と比較すると、2016年のアメリカでの評価では20ngなので、化粧品だけで超えていることになります。
同じ2018年のスウェーデンの研究では、化粧品に含まれる様々なPFASの中で禁止されているPFOAだけに限定すると、ファンデーションの使用での一日摂取量は体重1kg当たり3.1ngになると計算。それ以外のすべてのPFASを含むと12.21ngとなりました。
アメリカのTDIよりは低いのですが、EUでは2020年に欧州食品安全機関はアメリカより30分の1も低い1日当たり0.65ng(PFOA,PFOS,PFNA,PFHxSの合計値)というTDIを発表しています。化粧品からのばく露は無視できません。
さらに2022年6月にアメリカ環境保護庁(EPA)は、さらに低いTDIを発表。PFOAで0.0015ng、PFOSで0.0079ngという値で、この値に比べると化粧品からのばく露は、無視できません。
化粧品へのPFAS規制は国内ではありませんが、アメリカでは2020年にカリフォルニア州政府がPFOS,PFOAなど長鎖型PFASとその関連物質11種類について2025年までに禁止する法律を成立させました。さらに現在アメリカ連邦議会には、長鎖・短鎖を含むすべてのPFASについて意図的に化粧品に配合することを禁止する法案が提出審議中です。
そもそもPFASって何?
第二のダイオキシン問題とも称される有機フッ素化合物(PFAS)汚染問題。米軍基地での消火剤由来と疑われる沖縄や東京多摩地域の地下水・飲料水汚染の地域の住民の人たちからは、血液中から比較的高い濃度でのPFASが検出されています。
PFASとは、炭素とフッ素を人工的に結合させた化合物のことで、4500種類以上あると言われています。水と油をはじくという特徴が注目され、1950年代からり空港や軍事基地などの火災に使われる泡消火剤をはじめ、防水スプレー、フライパンや鍋の焦げつき防止、ハンバーガーやピザなどのファストフード用の油をはじく包装容器などに使われてきました。
しか炭素とフッ素の結合した化合物は、環境中でも人の体内でも分解されにくく、蓄積されやすいことが分かり海外では「永遠に残る化学物質(フォーエバーケミカル)」と呼ばれるようになりました。
4500種類以上と言われるPFASの中でも、最も多く使用されてきたのが、PFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸、またはペルフルオロオクタンスルホン酸)とPFOA(パーフルオロオクタン酸、またはペルフルオロオクタン酸)、およびそれ等の関連物質でした。
高蓄積・難分解性という特徴に加え、高濃度に汚染された飲料水を飲み続けた住民への健康調査の結果、発がんや甲状腺疾患、潰瘍性大腸炎、高コレステロール血症などのリスクを上げる毒性があることが判明。さらに近年では環境ホルモン作用があることも分かってきています。
PFOSとPFOAの2物質については、「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)」で、2009年と2019年に製造・輸入・使用が原則禁止されました。
PFASの難分解性と高蓄積性は、炭素とフッ素の化学結合によってもたらされています。またそのフッ素結合した炭素の鎖の数が長いほど難分解で高蓄積になると考えられています。禁止されたPFOSとPFOAは、炭素(carbon)数が8個の鎖で構成されていて、C8系PFASとも呼ばれます。炭素数8個以上のPFASは、長鎖型PFASと分類されています。ただそれらの代替物として使用されてきたが、長鎖型よりも分解しやすく、蓄積しにくいと言われる炭素数が6個以下の短鎖型PFASでした。しかしその後の研究で短鎖型でも、難分解・高蓄積性、毒性も長鎖型同様にあることが分かってきていますが、まだ身近なところで使用され続けています。
現在でも使用されている一例として、ファストフードのハンバーガーやフライドポテトの容器包装があります。アメリカなどでは業界が自主的に使用を中止する動きがありますが、日本は遅れており、多くのファストフードの包装容器にはPFASが使用され続けています。
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