3月7日締め切りのPFASに関する食品安全委員会の評価書案パブコメへの意見

有機フッ素化合物(PFAS)

3月7日が締め切りの食品安全委員会によるPFASのTDI設定の評価書案に対するパブリックコメントですが、個人的に提出した意見をご紹介することにしました。あと1日しかありませんが、皆さんの参考になれば幸いです。

パブコメは何より数が勝負。何はともあれ意見をだして、国民の関心が高いということ示して、圧力を感じてもらうことが大事だと思っています。

その一方で、せっかく出すのなら、何らかの議論の爪痕みたいなものも残したいという欲が出てきます。たまたま食安委のパブコメは1件500字以内という縛りがあるので、それを逆手にとって、1件500字以内の意見を10件作って提出しました。

さてさて少しは面白い回答が出てくるかな?

以下は10件のパブコメ意見です。テーマごとに分けてみました。

1)科学的不確実な有害影響についてもTDI設定に利用すべきという意見

1,フェロー諸島の研究による免疫毒性は、魚食が多い日本人に対する影響を示唆している可能性がある。水銀やPCBとの複合影響を考慮して見直すべきである。

免疫毒性を示したフェロー諸島のデータは、鯨を多く食べるという特異食習慣のため、水銀やPCBなどのPFAS以外の有害物質の影響が交絡要因として十分調整されていないという理由で却下されている。

しかし、日本では、欧米の一般的な食習慣と比較すれば、海産物の摂取量は多く、人体中の水銀濃度も高い。このため、フェロー諸島の研究が示す影響は日本人にも当てはまる可能性がある。

日本国内で水銀(水俣病など)、PCB(カネミ油症など)の研究者の意見を求め、水銀、PCB、PFASとの複合影響を考慮したうえで、フェロー諸島のデータを基にTDIを見直すことが科学的に可能であると考えられる。

 たとえそれが難しいと判断された場合でも、「フェロー諸島のケースが特殊だから」という理由だけで終わらせるのではなく、科学的に検討した経緯を開示すべきである。その情報は今後の疫学や複合影響研究などに対するフィードバッグが可能となるであろう。

2. 血中ALT値、コレステロール値上昇リスクも有害影響とみなすべき

 今回の評価書案では、PFASによる血中のALT値の上昇、コレステロール値の上昇については、変動の範囲が正常閾値内に収まる程度であること、そのような増加が将来的な疾患(肝疾患や心臓病または脳卒中)に結びつくかが不明であるとして却下されている。

しかし、日本人の人間ドックデータを見る限り、血中のALT値もコレステロール値も増加傾向にある。正常値ギリギリの人がPFASのばく露によりさらに上昇する可能性は否定できない。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/ningendock/30/4/30_750/_pdf

有害化学物質の健康影響評価に際しては、不特定多数の人たちがばく露する可能性を考慮して、こうした疾病につながる指針値の上昇が起こらないようなTDIの設定が必要である。

3、明確な用量反応関係がない場合でも有害影響を無視してはいけない

 今回の評価書案では、例えば血清LAT値の上昇や、コレステロール値の上昇について、高ばくろ量でも、低ばく露域の軽微な増加を上回るような増加は見られず、明確な用量反応関係は示されないことを理由に却下されている。

 しかし、そのメカニズムが、ホルモンやその他のさまざまな受容体のかく乱作用(いわゆるシグナル毒性)であった場合、生体内でダウンレギュレーションが起こり、高濃度での影響が低下することが起こりうると想定される。

 PFASにこのような高等な毒性メカニズムによる有害影響が起こるとしたら、より慎重に審査をする必要がある。

 またヒトの疫学で影響が出ている場合には、そこで影響が出た値に基づいてTDIを定めておいて、被害拡大を防いだ状態で、時間をかけてメカニズムの解明の研究を進めるべきである。

4、発がん性データの評価の見直し

 IARCがPFOAについて「ヒトに対して発がん性がある」というグループ1の評価を行い、PFOSについて「ヒトに対して発がん性の可能性がある」というグループ2Bの評価を行ったことに対して、評価書案の説明では、ヒトに対する証拠は限定的で、動物実験では十分だが、ヒトへの外挿は難しい、メカニズムについてはいずれも間接的で強い証拠とは言えないとコメント。またIARCの評価はあくまで証拠の確実性に関する評価で、リスクを評価したものではないと強調している。

 しかしガンなどの重篤な有害影響については、被害の未然防止の観点から、動物試験の結果が示された段階から対応して、ヒトでの影響が出ないようにすることが重要である。

 動物実験では十分でも、ヒトへの外挿が難しい、ヒトでの影響が限定的、メカニズムは弱いということを理由に、TDI設定から除外してしまってはいけない。

 発がん性でのTDIを評価してみて、他の有害性のTDIと比較してより低い値を選ぶべきである。米国EPAの用量推計モデルを使えば、発がん性の影響が出る血中濃度の人たちが、日本国内に多数存在することに対してもっと危機感を持って対応すべきである。

5.動物実験での生殖・発生毒性試験データをTDI算出データとして採用したことの妥当性について

 最終的にTDIの根拠とされた発生毒性試験データであるが、用量反応関係が読み取れることと、胎児の前肢および後肢の近位指節骨の骨化部位数の減少などの有害影響を重篤と判断したのではないかとも思われるが、実際のところ、なぜこの有害影響だけが科学的信頼に足ると判断されたのかが不明瞭である。別のコメントとして提出しているが、用量反応関係の有無だけをあまりに重要視しすぎると、受容体を介した毒性などを見落とすことになってしまう。また、血中ALT値やコレステロール値などの変化など一見軽微に見える有害影響についても、一般集団の多くが暴露する状況では、正常範囲を超える増加につながり、重篤な疾患のリスクを上げる結果になる可能性もあることが無視されることになる。

 できるだけ多くの有害影響に基づいたTDIを計算した上で、一番低い値のものを採用する従来のリスク評価方法に戻して再評価するべきである。

2)ばく露評価の妥当性についての意見

6、ばく露評価の中に、高濃度汚染地域の人たちのデータが活かされていない点について

 TDIを決める一方で、国民のばく露量の推定も行われており、平均的な推定摂取量はTDIと比較すると低い状況にあると判断されている。

一方で、今回提案されているTDI、20ng/kg/dayを摂取し続けた場合の血中濃度を、米国EPAの用量推定モデルで計算するとPFOAで167ng/mLとなる。国内の高濃度汚染地域の住民の血中濃度のデータでは、例えば水道水のPFOA汚染が起きた岡山吉備中央町の住民の血中濃度は平均値で171.2ng/mLであり、TDIに相当する血中濃度を超えている。

 日本国内にTDIを上回る量のばく露を受けている人たちが存在することの危機感を持って、評価をやり直してもらいたい。

 食品安全委員会では、各国の用量推計モデルはそれぞれさまざまな仮定を前提に構築されており、現時点ではモデルが確立された状況ではないという意見で、食品安全委員会で独自にモデルを構築する予定もないとのこと。最適なモデルがない現状では、海外のモデルを採用して、国内のばく露評価に使うべきである。

7.血中濃度のドイツHBM値および全米アカデミーのガイダンス値の評価について

 ヒトの血中濃度に関するドイツのHBM値および全米アカデミーのガイダンス値について、食品安全委員会では、「その値の超過は必ずしも個人の健康影響の出現を意味するものではない」というアカデミーの説明の部分を、より強く説明している印象を受けます。

 個々の人に必ず健康影響が出現する値を求めるということ自体は無意味で、健康影響が出現するリスクが上がる値で規制すべきである。ドイツのHBM値も全米アカデミーのガイダンス値もリスクが上がる値として提案していると考えられる。

 したがって、積極的にこれらの値を採用し、海外の用量推定モデルも積極的に採用し、国内のばく露評価に生かすべきである。

3)その他の意見                                      

8.自ら評価なのになぜ数値を出すことを優先したのか?

 そもそもPFASの評価については、本来であれば水道水や河川・地下水などの公共用水域の基準値を所管する厚生労働省や環境省が食品安全委員会に諮問すべきところである。しかし、今回の評価は食品安全委員会による「自ら評価」として実施された。

 PFASに関しては、過去に平成20年度、平成22年度、平成23年度、平成24年度、平成26年度、平成27年度、平成30年度に自ら評価の案件候補として挙げられ、平成24年度、25年度にはファクトシートの作成と改訂が行われている。令和4年度の候補案件として再度提案され、令和5年1月31日の食品安全委員会会合で、「厚生労働省、環境省が水質の目標値などの検討を開始したことから両省に科学的な助言を行っていくべき」として自ら評価の対象となることが決定された経緯がある。(以上の部分は不要かもしれない) 一方で、食品安全委員会は、リスク管理の事情から独立し、科学的に公正中立にリスクを評価する機関として認識されている。今回のPFAS評価に際して、記者向けブリーフィングの中で姫野座長は「個人的にはプランAとして、TDIは決められないのではないかという考えがずっとあったが、食品安全委員会として数値を出さないと、次のステップで水質を決める人たちが多分それは困るんではないかと思い直して」という発言を何度かされていた。

科学的な評価として証拠不十分だからTDIを決められなかったという結論にし、リスク管理機関に対しては、「ALARAの原則」に従って、達成可能な限りできるだけ低くするという提言でも良かったのではないか?

なまじ20ng/kg/dayという数値を出してしまったばかりに、それ未満であれば安全性に問題はない、水道水についても現状の50ng/L未満であればそれ以上低減する必要はないという誤った情報を提供することになるのではないか?

9.評価書の内容について、EPAやEFSAからの批判も受け、その結果を国民に公表すべき

今回の評価書案は、海外の評価機関の間でTDIが10万倍の差があることの理由を見つけ、科学的に確実性の高い有害影響を見つけることを目的としていると説明されていた。つまり、食品安全委員会は、米国EPAや欧州EFSAの審議内容について、科学的に不確実な証拠を元に評価されたものであると批判した内容になっている。科学の世界での相互批判は必須のものであるが、相互批判が成立するためには、今回の評価書案を整理して、英語の学術ジャーナルに掲載するべきである。

また、食品安全委員会の英語のホームページにだけアップするのであれば、その内容を米国EPAや欧州EFSAに送付し、コメントを求めるべきである。

さらに、個別の研究論文についても批判を加える以上、掲載されたジャーナルにコメンタリー記事を投稿し、原著者との意見交換を行なうべきである。

また、その結果を国民に公表すべきである。

10,諸外国の評価書のデータをなぞるだけの簡易的なリスク評価ではなく、用量推計モデルの設定も含めた本格的なリスク評価に早急に着手すべきである。

通常の食安委の手法では、さまざまな毒性の試験データから最も低い毒性を見つけてそこからTDIを決定するが、今回のPFAS評価では、海外の評価書ベースで、証拠の確実性の高い毒性を見つけるという手法になっている。その理由として食安委はPFASの試験は公表文献が多く、農薬や添加物の評価のような企業によるGLP試験などのパッケージがない点を挙げている。しかしその結果、不確実性が高いと評価された毒性については評価から除外されてしまった。これは科学的不確実性がある場合、安全側に立って評価する従来のリスク評価から逸脱している。

またそうした毒性が出現する摂取量を、海外の用量推計モデルで血中濃度に換算すると、日本国内の多くの高濃度汚染地域の住民の血中濃度は超過している。そうした現状に危機感を持って食安委は、簡易的なリスク評価ではなく、独自の用量推計モデルの設定も含めた本格的なリスク評価に着手すべきである。

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