アメリカ・カナダの学生制服から高濃度PFAS検出

有機フッ素化合物(PFAS)
ネットを検索すると、防汚処理の子ども用服がたくさん売られています。

レインコートや登山やスキーウエアなどに防水のためにPFASが使われているのは有名な話ですが、実は普通の服にも汚れが付きにくくする(防汚処理)として広く使われていることはあまり知られていません。週刊金曜日2022年10月21日号の記事をベースにアップデートしました。

今年の初め2022年3月12日に神奈川県座間市で、有機フッ素化合物(PFAS)に関する講演をした時の事。講演後の質疑応答で「着物へのパールトーン加工というのもPFASなのでしょうか」という質問を受けました。

 恥ずかしながら聞いたことがなかったので「着物の加工ですか?」と逆に質問してみたら「ええ、着物が汚れないように加工してもらうんですが、結構お高いんですよね」。「後で調べて分かったらご連絡します」と答えたのですが、その後調べてみてびっくり。

まさにPFASによる撥水・防汚加工だったのです。メーカーのホームページでは「雨や泥はねを気にしたり、食事のときの汚れを心配したり、大切なきものを着ているときの悩みを、パールトーン加工は優れた撥水性能で解消します。天候や場所を気にせずに、どこへでも和装でのお出かけを楽しめます」とか、「一着のきものに込められたたいせつな想い出を、愛情をまもりながら、しっかりと受け継いでいくことができます」と宣伝しています。

 技術的な説明の文書などを見ると、80年以上の歴史があるらしく「パールトーン加工は、繊維分野の撥水・防汚加工の先駆けとして開発された。石油溶剤にフッ素系撥水剤やシリコン系撥水剤を配合し、浸漬や高圧噴霧する。素材の風合いや通気性を損なうことなく最大限に撥水性と防汚性を引き出すオーダーメイドの加工」とのこと。

繊維の表面には、「フッ素系撥水剤に由来するフッ素が分布している」のだという。宣伝文句の中には「素肌に直接触れる襦袢などにも、パールトーン加工は効果的」とあります。襦袢までPFASの撥水剤漬けにしたら、肌から吸収して大変なことになるのではないだろうかと心配になりました。

 ただ、高価で長持ちさせる和服だから、値段が高くてもそういう加工をするものなのかな、一般の洋服にはそれほど普及しているのではないのだろうと思っていました。

基準値を大幅に超える学生服からのばく露

 しかし私の思い込みを大きく覆す研究論文が、2022年8月に発表されました。なんと学生用の制服から、高濃度のPFASが検出されたというのです。カナダとアメリカで市販されている子ども用の衣類、制服、アウトドア用衣類、雑貨(ゼッケン、帽子、水着など)で、「防水、耐水、耐久撥水、防汚」などと表示されているもの57サンプルを調査した研究です。

 その結果、100%のサンプルから様々なPFASが検出されました。その濃度は重量ベースでは0.283~153,000ng/gの範囲で中央値は728ng/gでした。雑貨類は比較的低いものの、制服からは、アウトドア用衣類よりも高濃度のPFASが検出されています。

 論文ではヒトでのばく露の影響が考察されていて、特に制服は直接肌に接触する機会が多く、平日はほぼ毎日長時間1日8~10時間着用されています。その結果、皮膚からの吸収(経皮ばく露)はもちろん、一部のPFASは揮発性があるため衣類から放出されて吸いこんでしまう(吸入ばく露)可能性があるとのこと。低学年の子どもの場合は制服をなめてしまって吸収するリスクもあるといいます。

  制服からの1日当たりのばく露量(経皮ばく露のみ)は、中央値で0.0002~222ng/kg/dayの範囲で、中央値が1.03ng/kg/dayと推定されています。この間何度も報告していますが、2022年6月にアメリカ環境保護庁(EPA)は耐容一日摂取量をPFOAで0.0015ng、PFOSで0.0079ngに引き下げています。EUの欧州食品安全機関でも2020年に4種類のPFASの合計で0.63ngと設定しています。それらの基準と比べても超過しており、安全・安心とは言えない値です。

論文によると、また制服を洗濯することにより排水に溶けて環境中に放出されると指摘しています。また乾燥中には揮発によって大気へ放出されます。古くなった制服は廃棄されますが、アメリカでは多くは埋め立て処分されており、PFASが処分場からの浸出液に溶けだし環境中に放出される可能性が指摘されています。環境中でほぼ分解しないPFASの厄介なところです。

 今回検査したのは49種類のPFASで、最も多く検出されたのは、6-2FTOH(フルオロテロマーアルコール)という化学物質で、全体の97.8%を占めました。また新しい化学物質が出てきて恐縮ですが、これが一万種類以上あるPFAS問題の厄介なところです。

この6-2FTOHは、それ自体も界面活性剤としても使用されていますが、環境中では分解して最終的にPFHxS(ピーエフへクスエス)やPFHxA(ピーエフへクスエー)になります。ただアメリカ食品医薬品局の研究では、6-2FTOH自体にも毒性があり、それはPFHxAより高い結果が出ているのですがまた規制対象になっていません。さらに49種類以外にも分析で特定できない未知の有機フッ素化合物多く含まれていることも確認できました。

天然繊維の方が濃度が高い

また制服の生地の種類によっても濃度に違いがあり、素材が100%綿 綿スパンデックス(ポリウレタン弾性繊維 綿97~98%)、綿ポリエステル(綿50%)の順番でPFAS濃度は高くなりました。綿は親水性が高いため、撥水性防汚性を得るためには、化学繊維よりも大量のPFAS処理が必要となるからと推定されています。天然素材の方が、濃度が高いことになるわけです。

日本でも多くの制服に「防汚処理」

論文では、子ども用品の防汚性の必要性は再評価されるべきであり、どうしても必要であると判断された場合にも、非PFASの安全な代替品を使用すべきであると結論付けています。

 さて、日本の制服は安全なのか?ネットで学校用制服を検索してみたところ、ほぼほぼすべての商品に「防汚処理」という表示が見つかりました。高級品の着物よりも、毎日着用して汚れやすい子ども用制服こそ、そうした防汚処理がもとめられるということなのでしょう。今回海外ではあるが、ようやくそのリスクに目がむけられたということなのかもしれません。

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