血液中のPFOS濃度が高いと死亡率が上がる

沖縄や東京多摩地域での市民団体による住民血液検査が実施されています。PFASがどれだけの血中濃度で有害影響が出るのかについては、これまでドイツ政府やアメリカ科学アカデミーなどが指針値を出していますが、一般の人たちの血中濃度でも高い人ほど死亡率が上がるという疫学研究が2022年に発表されました。週刊金曜日に書いた記事を元にアップデートしました。

血液中のPFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸)の濃度が高い人ほど、心臓疾患やがんでの死亡率が上がるというショッキングな研究論文が、2022年6月に発表されました。

有機フッ素化合物の中でもPFOSとPFOA〈パーフルオロオクタン酸〉は、難分解性汚染物質として2000年から2015年にかけて世界的に段階的に廃止されてきていますが、依然として世界中の水や土壌に存在しています。また食物連鎖により生物濃縮されます。

ダイオキシンやPCBといった難分解汚染物質の多くが体内で脂肪に蓄積するのに対して、有機フッ素化合物はたんぱく質に結合します。そのため体内では脂肪組織ではなく、血液が循環する肝臓や腎臓などに多く分布することになり、そういった器官での疾病リスクが高くなります。また人間での生物学的半減期もPFOSで3~4年と長く、一度体内に入ると長期にとどまるなどの問題があるわけです。

PFOS、PFOAに関連する疾患としてはこれまで、がん、高コレステロール血症、肝臓疾患、免疫機能障害などについて一貫したエビデンスが示されてきています。死亡率を調べた研究では これまでPFOSに汚染された地域の住民の全死因死亡率が、非汚染地域の住民よりも高いことや、PFOSを生産する工場労働者で、金属加工工場労働者と比較して死亡率が高いことが示されています。ただ特定の汚染にさらされていない一般の人たちの間で死亡率に影響が出ているのかを調べた研究はこれまでありませんでした。

今回、一般の人たちを対象として初めて血中のPFOS濃度と全死因死亡率、心臓疾患死亡率、がん死亡率との相関が示されました。今回の研究での検出された血中PFOS濃度は比較的低めです。そうした一般の人たちの血中濃度レベルでも、濃度が高い人では死亡率のリスクが上昇している可能性を示しています。

 研究は、アメリカの疾病予防対策センター(CDC)が実施している米国全国国民健康・栄養調査の1999年から2014年のデータを使い、18歳以上の調査参加者11,747人を2015年12月31日まで追跡調査しました。その間1251人の参加者が死亡しました。その内29.7%(372人)は心臓疾患による死亡で、19.8%(248人)ががんによる死亡でした。

調査中の血液検査で測られたPFOSやPFOAなど7種類有機フッ素化合物の濃度と死亡率の関係を分析しました。その結果血液中のPFOSの濃度が高いほど、全死因死亡率、心臓疾患死亡率、がん死亡率全てが上がるという結果となりました。PFOAの血中濃度でも調べましたが、PFOAでは相関は見られませんでした。

 検査対象者の血液中のPFOSの濃度は0.07~435ng/mL。血液濃度によって3つのグループ、低グループ(7.9ng/mL未満)3.886人、中グループ(7.9~17.1ng/mL)3.917人、高グループ(17.1ng/mL以上)3,944人に分けて、低グループと比較して、どれだけ死亡率が高いかを比較しました。その結果、高グループで、全死因死亡率で1.57倍となりました。心臓疾患死亡率でも1.65倍、がん死亡率でも1.75倍と統計的にも有意に上昇していたのです。

血中濃度減少で年間38万人の死亡者減少

 研究ではさらに、PFOSと死亡率に因果関係があると仮定して、アメリカの全人口で果たしてどれだけの死亡者数がPFOSによるものかを計算しています。1999年から2015年にかけての年間死亡者数2,480,636人のうち、PFOSが原因と推定されるのは15.4%の382,000人となりました。心臓疾患での年間死亡者数中643,525人中の16.9%に当たる109,000人、がん死亡者数では567,441人中の106,000人が、PFASが原因の死亡者数と推定されました。

その意味は、もし血中濃度の高いグループの17.1ng/mL以上だった人たちが、低いグループの7.9ng/mLにまで血中濃度を低下させた場合、その数の死亡者数を減らすことができると指摘しています。

その後の2015~2018年の国民健康栄養調査では、2014年以前に比べてアメリカの成人の血中PFOS濃度は低下していることが示されています。血中濃度17.1ng/mL以上の集団の割合は33%から4.6%にまで減少しました。一方7.9ng/mL未満の集団の割合は75%にまで増加しました。論文では、高濃度のグループが減少した効果を計算しており、年間全死因死亡者数2,777,397人のうち、PFOSが原因と推定される割合は2.5%へと減少。数として69,000人に相当すると推定。同様に心臓疾患でのPFOSが原因と推定される死亡者数も18000人、がんでのPFOSが原因と推定される死亡者数も19,000人にまで減少したとしています。

女性の方が関連が強い

 また男性と女性に分けた分析では、女性の方がPFOS濃度による死亡率が高いという結果になりました。全死因死亡率で、男性だけだと1.23倍に対して、女性だけだと1.98倍になっています。その点について論文では、PFOSには性ホルモンをかく乱し、特に女性ホルモンの機能を阻害する可能性があることを指摘しています。その結果女性ホルモンに関連する疾患である乳がんや卵巣がんの上昇につながるという研究もあることを指摘しています。

なぜPFOAでは相関がなかったのかについては、まだ研究が必要です。毒性メカニズムに違いがある可能性もありますが、今回の調査で検出された濃度が、PFOSの方がPFOAよりも有意に高かったことも原因と想定されています(PFOS平均濃10.96ng/mL,PFOA3.09ng/mL)。

 日本の健康栄養調査ではアメリカの様に有害化学物質のモニタリングは実施していません。しかし環境省が小規模ながら2011年から2016年度まで実施していた「化学物質の人のばく露量モニタリング調査」では、全ての人からPFOS,PFOAが検出されています。そういう一般の人の血中濃度でも高い人では悪影響が起きている可能性を示した研究だと言えるでしょう。

出典: Wen X et al. Exposure to Per- and Polyfluoroalkyl Substances and Mortality in U.S. Adults: A Population-Based Cohort Study. Environ Health Perspect. 2022 Jun;130(6)

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