有機フッ素化合物汚染問題で、沖縄や東京多摩地域など水汚染の深刻な地域で、市民団体による住民血液検査が実施されてきています。まずは汚染実態を把握する必要があるためです。一方で海外では、特に血液中から高い濃度が見つかった場合、血中濃度を下げるための対策などについての研究もおこなわれています。今回はその事例を紹介したいと思います。
定期的な献血で体内PFAS汚染は減るか?
そもそも有機フッ素化合物は水中や土壌などの環境中で分解されにくく、またヒトを含む生物の中に取り込まれた場合体内に蓄積しやすい性質を持っています。血液中のPFASが半分の量に減るために必要な期間である生物学的半減期は、PFASの中で現在最も水汚染が多いPFOSで4.8年、PFOAで3.5年、PFHxSで7.3年とされています。
過去の研究では、多血症(赤血球増多症)などで定期的に瀉血をしている患者で血中PFAS量が低いことを示されています。またアメリカのヒトバイオモニタリング調査などの結果からは、男性と女性の血中濃度を比べると、女性の方が男性より低いことが分かってきています。
閉経前の女性は男性よりもPFAS濃度が低く、これはおそらく定期的な月経に伴うPFASの低減効果によるものであろうと推定されています。
PFASは血液中では血清のたんぱく質に結合しているので、これらのたんぱく質を含む血液を体外に排出することで、血液中のPFAのレベルは減少することが想定されます。12か月にわたる定期的な献血による血中のPFASの濃度の減少効果についての臨床試験が論文として2022年に発表されました。
メルボルンがあるオーストラリア南部のビクトリア州の消防士の中で、血液中のPFOS濃度が5ng/mL以上の285人を対象にしたもの。全体を3つのグループにわけ、経過観察だけのグループ、470mLの全血献血を12週間に1回行うグループ、800mLの血漿成分献血を6週間に1回行うグループに分けました。また献血には全血献血と、血漿成分だけの献血の2種類があります。PFASは主に血漿中に存在しているので、全血でなく、血漿成分献血を行なうことが体内濃度を減らすためには有効と考えられます。
それぞれ1年間経過観察し、はじめと終わりに血液中(血漿中)のPFOSの濃度を測定し、その濃度の減少の度合いを比較した結果が下の図です。
PFOSの場合、血漿成分献血のグループでは、平均で2.9ng/mL減少した。全血献血のグループでは、1.1ng/mLの減少。献血はしなかった観察だけのグループでは0.01ng/mLの減少とほとんど減りませんでした。PFHxSでは血漿成分献血グループでは1.1ng/mL減少しました。しかし全血献血グループはマイナス0.1ng/mLとほぼ減りませんでした。また経過観察グループでは0.4ng/mL増えてしまいました。
もともとの血中濃度の高さによって効果に差が出るかの分析も行っています。それぞれのグループ中でPFOS濃度が多い順に4つのグループに分けて、血中濃度の減少効果を比較した分析では、もともとの血中濃度が高いグループほど、減少効果が大きいことも分かりました。
全血と血漿成分献血での効果の違いは、全血と血漿との違いのほかに、6週間ごとと12週間ごとの献血回数の違いと、1回の量が血漿で800mLと全血で400mLとの献血量の差もあると判断されています。
PFOAを含めたそのほかのPFASについても調べられましたが、もともとの血中濃度が低く、検出限界以下のケースも多かったため効果は不明とのこと。
研究では、「今後さらなる研究が必要だが、献血行為、特に血漿成分献血でのPFASの濃度の低減効果が確認された。献血は医療従事者の関与の下に実施されるので患者へのリスクは低いため有効な低減方法と考えられる」としています。
今後このような、血中濃度の高い人たちに向けての対処方法などの研究も進めてもらいたいものです。
用語解説 PFAS(ピーファス)有機フッ素化合物全体を示す。 PFOS(ピーフォス)過去に最も多く使用され環境汚染が問題になっているPFASの一つ PFOA(ピーフォア)過去に最も多く使用され環境汚染が問題になっているPFASの一つ PFHxS (ピーエフへキスエス) PFOSの代替として使用されているPFAS
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