(解説)ここ数年間、毎年夏の時期に化粧品の紫外線吸収剤の危険性について記事を書いてきました。その時点で市販されている日焼け止め化粧品を比較して、おススメ商品などを紹介してきています。ちょっと古くなって恐縮なのですが、2021年版の記事をWeb上で公開します。
(基礎知識)日焼け止め化粧品の有効成分には、紫外線吸収剤と紫外線散乱(反射)剤の2種類があります。紫外線吸収剤は合成化学物質で、化学反応を利用して紫外線を熱エネルギーに変えて放出することで紫外線を防御します。一方の紫外線散乱剤は酸化亜鉛や酸化チタンといった無機の鉱物で、物理的に紫外線を散乱、反射させる仕組みです。
対応が遅い「資生堂」
アメリカ・ハワイ州では、サンゴの白化に影響する懸念があるとして、2018年7月一部の紫外線吸収剤を含む日焼け止め化粧品の販売を禁止しました。禁止されたのは「オキシベンゾン‐3」「メトキシケイヒ酸エチルへキシル(別名オクチノキサート)」の2物質です。
これらの紫外線吸収剤には、人間への影響としても内分泌かく乱作用といって、肌から体内に入り込み女性ホルモンや男性ホルモンなどの働きをかく乱する毒性があることが分かっています。
特に「オキシベンゾン‐3」は皮膚への浸透する度合いが大きいため、日本国内でもほぼほぼ使用されなくなりました。今回の筆者が調査した範囲では、唯一使われていたのは資生堂のクレドポーボーテの「クレームUV」という商品だけでした(2022年9月段階でも使用されているようです)。
資生堂は自社ホームページの成分選定ポリシーで、オキシベンゾン‐3を使用しない成分にあげています。問い合わせたところ「2021年発売のアネッサの新商品には処方を止めたが、まだ残っている商品もあり努力段階」という回答でした。
ただ、他社の製品でいまだにオキシベンゾン‐3を使っている日焼け止めは、ほぼ無くなっているので、資生堂だけが対応が遅れていると言われても仕方がありません。
小中学生の使用で生殖器の発達に遅れ
一方、もう一つの成分「メトキシケイヒ酸エチルへキシル」は、現在でも盛んに使われています。日本の日焼け止め化粧品に処方される紫外線吸収剤の一番多い成分と言ってよいでしょう。もともと「メトキシケイヒ酸エチルヘキシル」の内分泌かく乱作用については、デンマーク政府の環境省の主導で評価した報告書に詳しく掲載されています。
2011年のラットを使った実験では、妊娠中と授乳期での母親へのばく露によって、オスの仔で男性ホルモンの量が少なく、前立腺と精巣のサイズも小さくなりました。成長後の精子数も減少しました。
その後2020年には、その動物実験で見られた有害影響が、実際に人間の子どもたちにも表れていることを示す研究論文が発表されました。中国の研究で、上海周辺の7歳~15歳の子ども達521人を対象に、さまざまな環境要因が思春期の時期や健康に与える影響について追跡調査した研究の一環です。
12種類の紫外線吸収剤について、子どもの尿中の濃度を測定し、思春期の外性器(陰茎、睾丸、陰毛)の変化との関連を調べています。その結果、メトキシケイヒ酸エチルへキシルの尿中濃度が高い子どもほど、睾丸や陰茎の発達が遅く、小さい、ということが分かったのです。
ただこれだけだと、ある1時点での尿中濃度と外性器の大きさを比べただけですが、この研究論文では、その後18か月後に、再び同じ子どもたちの尿中濃度を測っています。そしてその18か月の間の外性器の成長についても測定しました。そしてメトキシケイヒ酸エチルへキシルの尿中濃度が高い子どもほど、外性器の成長が遅れることを確認したわけです。人間でも顕著な影響がみられた初めての研究と言えるでしょう。
こうした外性器の発達の遅れは、大人になってから精子数などの生殖能力に影響することが分かっています。世界中で、男性の精子の数の減少が問題になっていて、2017年に発表された研究では、1973年から2011年の間に52.4%減と、ほぼ半分になっています。精子減少の原因の一つに、男性ホルモンの働きを阻害する化学物質が挙げられていて、一部の紫外線吸収剤が影響を与えている可能性があるわけです。
そうなると、特に子ども用の日焼け止め化粧品については、メトキシケイヒ酸エチルへキシルを含む紫外線吸収剤を徹底的に排除し、紫外線散乱剤だけを処方した商品が望ましい、ということになります。
ノンケミカル処方を増やす花王
そこで、スーパー、ドラッグストア巡りをして発見した「メトキシケイヒ酸エチルへキシル」を使った子ども用日焼け止めを図に示します。 「お子さまの肌に、やさしく使える」「親子で使えるUV 食品成分80%」などと、パッケージには宣伝されていますが、そうした文句に惑わされずに、成分表示をしっかり読んで商品を選んでほしいものです。
紫外線吸収剤を使用していない(メーカーはノンケミカル処方と呼んでいるらしい)商品は、花王の「ビオレUV キッズピュアミルク SPF50」だけでした。取材に対して花王は「もともと2016年発売の『ビオレ さらさらUV のびのびキッズミルク』という商品には紫外線吸収剤が入っていて、その紫外線吸収剤をカプセルに包むことで刺激を少なくしました、ということだったんですが、2020年2月にリニューアルした段階で、紫外線吸収剤不使用にしました」とのこと。
また子ども用ではありませんが、敏感肌の方向けとして、紫外線吸収剤不使用のキュレルというシリーズの商品を2020年12月に発売開始しています。ただ一方で、「ニベアUVウォータージェル 子ども用SPF28」には、メトキシケイヒ酸エチルへキシルが使用されています。
その点について花王は「すべての商品を紫外線吸収剤不使用に切り替えた、ということではありません。紫外線吸収剤が多くの方にとって悪いものということではないんですけれども、昔よりも紫外線吸収剤不使用商品のニーズは高まってきていると思います。技術的にも紫外線散乱剤だけでSPF50を達成できたというタイミングで、処方が変更されて、お客様の選択肢も増えたのかなと思います」とのこと。
紫外線散乱剤の「酸化チタン」や「酸化亜鉛」には、サイズの小さいナノ粒子が使われています。というのも、ただ肌に塗ると真っ白になってしまうため、粒子を小さくして透明度を増しているからです。ナノサイズの成分の健康影響については一部有害影響を指摘する研究がありますが、アメリカ食品医薬品局(FDA)の評価では、肌に塗ったナノサイズの酸化チタンや酸化亜鉛は、多くは皮膚から吸収されても表面に近い角質層にとどまり、一部体内には吸収されても有害影響を及ぼすほどではないと判断されています。FDAを全面的に信用しているわけではありませんが、選択肢としては紫外線散乱剤の方になるのかなと思います。
不明な点も多いのですが、近年では、酸化セリウムという紫外線散乱剤を使って「ナノフリー」として販売されている日焼け止め化粧品も出てきています。オーガニックコスメ「ウルンラップUVクリーム」などです。心配な方はそちらを選ぶことをお勧めします。
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