感熱紙のレシートからの有害物質ビスフェノール類 欧州では規制へ

内分泌かく乱物質
レシートなど感熱紙の表面には有害物質ビスフェノール類が塗られている

(解説)内分泌かく乱化学物質の一つビスフェノールAについて、新たなばく露源としてレシートなどの感熱紙が注目され、2020年にEUが規制に乗り出したという記事です。週刊金曜日2020年4月24日号の記事を元に大幅に手を加えました。

私たちが毎日手にするスーパーやコンビニのレシート。そのレシートに触ることで表面に塗布された有害化学物質を体内に取り込んでいるというニュースです。問題を重く見た月欧州連合(EU)では、2020年1月に、レシートなど感熱紙に含まれるビスフェノールAの含有上限を0.02%に設定し、それ以上の感熱紙の禁止措置が施行されました。

ホルモンをかく乱する「ビスフェノールA」は生殖・脳・免疫へ悪影響

そもそもビスフェノールAとは、1999年に日本で内分泌かく乱化学物質が「環境ホルモン」と名付けられ社会的問題になった時に最も注目された化学物質です。

ビスフェノールA には女性ホルモン、男性ホルモン、甲状腺ホルモンをかく乱する内分泌かく乱作用があり、従来の毒性試験では有害な影響が無いとされた量よりも極めて低用量で、生殖器官や脳神経、免疫などへの異常が、動物実験や疫学研究で示されています。 

生殖への影響としては、精子減少や精子の機能異常など雄の生殖機能を低下させることが多くの動物実験で確認され、人間でも疫学研究で報告されています。

また脳への影響も多くの研究報告があり、動物実験では母体経由で曝露した仔ネズミは、攻撃性や社会性などの行動に異常を起こすことが報告され、人間でも疫学報告があります。

さらに免疫への影響、喘息やアトピー性皮膚炎などが報告されていますす。胎児期・新生児期のばく露だけでなく、小児期のばく露でも、実際の人間のばく露量に匹敵するような低い用量でもアレルギー性喘息を悪化させる頃を示す動物実験があります。

また肥満の原因物質としても、多くの研究報告があります。

身の回りのどこに使われているかというと、固いプラスチックの一つであるポリカーボネート樹脂の原料、缶詰の内面塗装やレトルト食品の接着剤に使われるエポキシ樹脂の原料が一番有名なところです。

ポリカーボネート樹脂は、子どもが使う哺乳瓶やマグカップなどに使われてきましたが、海外では2009年にカナダで、2011年にEUで、2012年にアメリカで、それらの子どもが使う食品容器でのポリカ―ボネット樹脂の使用が禁止されました。

日本では行政による禁止措置は取られていませんが、事業者の自主的な動きにより、学校給食の容器やほ乳瓶に使われていたポリカーボネートはすでに他のプラスチックへ代替されています。

また缶詰の内面塗装については、現在いづれの国にでも規制の動きはありませんが、日本では事業者の自主努力で、エポキシ樹脂中のBPAモノマーの含有量を削減させたり、エポキシ樹脂からポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂へ切り替えなどで大幅な溶出削減を達成しています。

新たなばく露源としてのレシートなどの感熱紙

そうした主要なばく露源については対策が取られてきましたが、近年スーパーマーケットで使われているレシートなど感熱紙に顕色剤として使われていることが問題になってきています。レシート以外にも、航空券、食品包装のラベル、ATMの利用票や、ガス・水道・電気の検針票などに使われています。

顕色剤は、紙の表面にモノマーの形状で塗られていて、その量は感熱紙の重量の1~4%を占めます。手で感熱紙の表面を触ることで簡単に手に移行し、その一部が皮膚から体内に吸収されます。

感熱紙からの手へのビスフェノールAの移行量は、使い方によっても異なり、手が乾燥した状態で触る場合は比較的少ないのですが、ハンドクリームなどを塗り手の脂分が増えた状態では、感熱紙から皮膚への移行量は10倍にも増えます。

皮膚から体内への吸収量も使い方によって違いがあり、手をアルコール消毒した直後には、ビスフェノール類がアルコールに溶けて体内の吸収量が増えます。通常は手の表面から吸収されるのは10%程度ですが、アルコールと混ざると、95%が皮膚から体内に浸透するという研究もあります。

それで、実際に日常生活で感熱紙を触ることになるリスクはどのくらいなのでしょうか?欧州連合では、2015年に欧州化学機関(ECHA)のリスク評価委員会が、レシートなどの感熱紙からのビスフェノールAのばく露のリスクを評価した報告書を発表しています。皮膚からの吸収量の基準値を、一般公衆で1日当たり体重1㎏あたり0.1μg、労働者は2倍の0.2μgと設定しました。

実際のばく露評価では、様々なモデルを使って推定していますが、一般公衆のばく露量は、おおむね0.01~0.1μgの範囲内で基準値以内に収まっているのでリスクはないと判定されました。

一方労働者の場合、ワーストケースのばく露では、0.37~1.427μgと基準値(0.2μg)を超えるケースもありました(下グラフ)。ワーストケースとは、スーパーマーケトでのレジ打ち従業員を想定したものです。

ちなみに2015年の中国の実際のスーパーマーケットの感熱紙に含まれるビスフェノールAの量から、レジ打ち従業員が1日にばく露する量を推定した研究では、1日当たり平均で94μgばく露すると推定されました。この数字を体重70㎏として体重1㎏あたりに換算すると1.3μgとなり欧州での基準値(0.2μg)の6.5倍となります。

欧州化学機関はビスフェノールAを含む感熱紙を触ることでの皮膚からのばく露による影響が無視出ないとし、従来感熱紙に1~4%含まれていたビスフェノールAの上限値を0.02%とし、それ以上含む感熱紙の製造販売を禁止することを勧告。欧州委員会で正式決定され、2020年1月から施行されることになりました。実質ビスフェノールAは感熱紙の顕色剤としては使えないということになったわけです。

代替物のビスフェノールSにも有害性ありの可能性

欧州での規制強化の動きに沿う形で、現在日本や欧州では、感熱紙の顕色剤は、ビスフェノールAから別のビスフェノール類であるビスフェノールSへ代替されています。しかしビスフェノールSについても、上記に上げたビスフェノールAの様々な有害作用がある可能性が指摘されています。

現在、欧州化学機関の委託でベルギー政府が、ビスフェノールSについて、内分泌かく乱作用、発がん性、遺伝毒性、生殖毒性などの評価を実施中です。

デンマークの最大小売事業者である「コープ・デンマーク」は、ビスフェノールAや代替物であるビスフェノールSを含めたすべてのビスフェノール類の不使用を宣言しています。

日本では現在のところ、感熱紙中のビスフェノール類に関する規制の動きはありません。

消費者が実行できる注意点としては、レシートを受け取ったら速やかに印字面を内側に二つ折にして印字のない裏面を触るようにする。航空券、ATMの利用票、ガス・水道・電気の検針票なども同様に表面をむやみに触らないよう注意。ハンドクリームなどを塗った手で触ると吸収量が大幅にアップするので要注意といったところです。

感熱紙の顕色剤とは

 レシートなどに使われる感熱紙は、インクを使って印刷しているのではなく、熱を加えたところが黒くなる仕組みで印刷しています。感熱紙の表面には、常温では無色な染料と顕色剤が塗られている。熱を加えることで染料と顕色が化学反応を起こし黒色に発色します。

感熱紙のビスフェノールS 日華化学のYouTubeチャンネルより

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