ミネラルウォーターのPFAS汚染を聞いてみた?(2021年3月)

有機フッ素化合物(PFAS)
沖縄や東京多摩地域などで地下水・水道水へのPFAS汚染が全国的にようやく注目されてきました。水道水が汚染されている場合の対策として使われるのがミネラルウォーターです。ミネラルウォーターの多くは地下水を利用しています。その周辺に汚染源が無ければ問題ないのですが、過去にアメリカの調査ではごく一部の商品ですが基準値を超えるPFAS汚染が見つかり、アメリカでは業界団体が独自の基準を設定しました。一方日本では自主基準もないので安全かどうかが分かりません。そこで2021年3月に、大手ミネラルウォター15社に対して、筆者もかかわる「食の安全・監視市民委員会」商品へのPFAS検査の有無についてアンケート調査をしてみました。以下2021年当時の日本のミネラルウォーターの状況です。2021年3月26日に週刊金曜日に書いた記事をベースに加筆・アップデートして掲載します。

 地下水を使う市販のミネラルウォータ―15社に、PFAS検査の有無についてアンケート調査したところ、企業の対応に大きな差があることが判明した。

 有機フッ素化合物は、空港や軍事基地などの火災に使われる泡消火剤の原料などに使われていて、米軍基地由来の地下水、水道水汚染が沖縄で社会問題化している。同様の地下水汚染が、米軍横田基地のある東京多摩地域でも起きていることが問題になった。

有機フッ素化合物は、環境中で分解されにくく、生体内にも蓄積されやすい性質から、海外では「永遠の化学物質(フォーエバーケミカル)」と呼ばれている。有機フッ素化合物の健康影響については、妊娠高血圧症及び妊娠高血圧腎症、精巣がん、腎細胞がん、甲状腺疾患、潰瘍性大腸炎、高コレステロール血症などが指摘されている。また別の研究では子どもへの影響として、出生時体重の減少、精神発達阻害、免疫力低下による感染症抵抗力の低下などが指摘されている。

厚生労働省は2020年4月、PFASの中で国際的にも使用が禁止されているPFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸)とPFOA(パーフルオロオクタン酸)について、水道水の水質管理目標設定項目に入れ、暫定目標値として両物質の合計値に対して、水1リットル当たり50ナノグラム(50ng/L)という基準を設定した。それ以降は、沖縄でも東京多摩地域でも汚染地下水の水道水への取水を止めたり、ほかの地域の水道水を混ぜたりすることで、水道水の値を暫定目標値未満にするよう管理されている。

それでは、市販のミネラルウォーターは安全といえるのだろうか。ミネラルウォーターは地下水から取水されている。しかし多くは富士山麓の水とか六甲の水とか、山奥の汚染排出源のない地下水が選ばれているのではないかと思われる。

しかし富士山の近くには、自衛隊の演習場があり、2020年2月の報道では、自衛隊が東富士演習場場で行った消火訓練でPFOSが含まれる消火剤の回収を怠った事例があると発表されるなど地下水汚染の心配はゼロとは言えない。

アメリカでは汚染事例も発覚で業界自主基準も

 実は市販のミネラルウォーターについて、アメリカで2019年に市販のミネラルウォーターから水道水の基準ぎりぎりのPFASが検出されたケースがある。水道水への独自の基準を持つニューハンプシャー州の環境局が、州内で販売されているボトルドウォーター41商品のPFASを検査したところ、7商品からPFASが検出された。そのうち5商品は、多種類のPFASの合計値で1リットル当たり120ナノグラムを超えていた。いずれも隣のマサチューセッツ州の「SPRING HILL SPRING」という水源から取水されたもので 一番高かったもので137.17ng/L。その内PFOSは19.5、PFOAは49.1で、両方の合計で68.6、米環境保護庁(EPA)の暫定目標値(合計値で70ng/L)をぎりぎり下回った。

 しかしそうした事態を受け、アメリカのミネラルウォーター協会である国際ボトルドウォーター協会(IBWA)は、協会の独自の基準として、PFASのいずれか1種類のみで5ng/L未満、複数のPFASの合計で10ng/L未満と定めた。国の基準の7分の1だ。商品としてミネラルウォーターは、水道水より汚染を低くすべきという考えだ。

その後、アメリカコンシュマーレポートが2020年9月4日、全米45ブランドの47種類のミネラルウォーター(非炭酸水35種、炭酸水12種)のPFASの濃度を調べた。 いずれも上記のIBWAの自主基準未満だったが、非炭酸水35種類中3種類、炭酸水12種類中7種類で、自主基準値の10分の1の1ng/L以上検出された。

中でも一番高かったのはコカ・コーラ社の「Topo Chico」という炭酸水で、9.76ng/Lと自主基準ギリギリの濃度であった。コカ・コーラ社は「将来もっと基準が厳しくなることに備えて、改善する」とコメントした。

実態不明の日本のミネラルウォーター

日本では法律上では市販のミネラルウォーターは水道法の対象ではない。ミネラルウォーターの水質基準は、食品衛生法の「清涼飲料水等の規格基準」が適用されるが、そこの基準は水道水質基準56項目だけ。

水道水のPFAS基準は、水質基準56項目の下の、「水質管理目標設定項目の目標値(27項目)」なので市販のミネラルウォーターには、順守義務はない。厚労省にも確認したが、ミネラルウォーターの基準は、水道水よりも甘いのが現状である。

 日本の業界団体である日本ミネラルウォーター協会に尋ねたが、「市販の各社のミネラルウォーターのPFAS濃度なんて全く把握していません。協会で独自基準を作るつもりもありません。各事業者にゆだねる」と、他人事のようなコメントであった。

そこで筆者もかかわる食の安全・監視市民委員会で、今回日本国内のミネラルウォーター事業者15社に対して、PFAS検査の有無についてアンケート調査を実施した。
その結果が図だ。

まず、検査結果を示した比較的優良な会社が3社あった。1社目は「セブンイレブンの天然水」の製造業者の㈱ジャスティスで、8か所ある採水地の水の検査を実施し、6か所の採水地の水は、定量限界(0.3ng/L)未満。1か所(和歌山県伊都郡)でPFOSが0.5ng/L,PFOAが3.5ng/L検出。1か所(群馬県利根郡)で、PFOAが0.4ng/L)という結果。検査結果をきちんと公表する態度に好感が持てる。
 2社目が㈱日田天領水で、定期検査を実施。検出限界未満を確認しているとのこと。ただ検出限界の値が書かれていない。3社目が、「ライフの天然水」などの製造業者の㈱蒼天。今回の問い合わせをきっかけに定期検査の実施を決めたとのこと。採水地は1か所(山中湖村)で、検出限界以下とのことだが、その検出限界は5ng/Lとあり、㈱ジャスティスの検出限界の10倍以上。今後変更が必要であろう。

続く4社目は「温泉水99」という商品のエスオーシー(株)。今後検査を検討するという回答。
 回答はあったものの、PFASの定期検査はなく、今後検討の予定もなしというのが、「アサヒおいしい水」などのアサヒ飲料(株)と、「キリンアルカリイオンの水」などのキリンビバレッジ㈱と、「強炭酸水 武尊の天然水仕立て」の㈱ニチネン川場事業所の3社。「いろはす天然水」などの日本コカ・コーラ(株)は、国の食品衛生法に準拠した品質管理体制と、全世界のコカ・コーラ独自の管理基準に準拠しているというのだが、具体的な質問項目への答えはないので、検査無し、検討の予定もなしと判断した。

最悪の回答すらしなかった企業は、「サントリー南アルプスの天然水」などのサントリーフーズ(株)を筆頭に、ポッカサッポロフード&ビバレッジ㈱、㈱伊藤園、㈱日本サンガリアベバレッジカンパニーなどの大手に加え、「スターセレクトSparkling water」の㈱友桝飲料、㈱ミツウロコビバレッジ、オンガネジャパン(株)、㈱ビクトリーなどであった。 
 いたずらに不安感をあおる意図はない。各メーカーが原水の地下水管理をしっかりやっていれば、ほぼ汚染ゼロという状態が保たれているはずだろうと期待するのだが、法律上不要な検査はしないとか、回答すらしないという企業は信用できない。

2021年段階では、PFASに関する一般的な関心は今よりも低かったことは確かである。世間の関心が高まっている今こそ、上記のミネラルウォーターメーカーには、率先して自社商品の安全性をデータで示してもらいたい。

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