東京多摩地域でのPFAS水汚染が再注目されています。多摩地域の有機フッ素化合物汚染を明らかにする会の皆さんによる大規模な住民血液検査の活動のおかげだと思います。
それに先立ちこと3年前、2020年に私もかかわっているダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議が、多摩地域でも特に水道水汚染が深刻だった国分寺市の東恋ヶ窪浄水所と府中市の府中武蔵台浄水所の配水地域の人たち22名を対象に、血液検査を実施しました。
その時の調査と結果の報告を、2020年11月07日にMynewsjapanに書いた記事の一部を抜粋、アップデートして掲載します。
PFAS汚染は、過去には、大阪のダイキン工業の排水汚染などが有名で、現在進行中では沖縄の米軍基地周辺での水汚染が報道されている。
東京・多摩地域の汚染も、東京都の調査で分かってきた。
2006年、東京都環境科学研究所は、多摩川のPFOS濃度を調査し、多摩川中流域が一番高く、その原因が下水処理場を経由して事業場排水が放流されているためだと究明した。
2008年の調査では、多摩川汚染源を調査し、電子部品・デバイス製造業のうち一ヶ所の排水から高濃度で検出され、また飛行場(明示されていないが、地図から米軍横田基地のことだとわかる)排水から高濃度で検出されていることを究明した。
しかし2010年の調査では、多摩川のPFOS濃度は、2005年の濃度比べると大きく減少していることを確認。PFOの製造、使用禁止措置の効果だと推定されている。
一方、地下水については、2010年~2013年の4年間に、都内237地点の井戸水を測定。立川市、国立市、府中市など多摩地域の井戸水から高濃度のPFASを検出した。「PFOSの製造、使用禁止措置に伴う効果が地下水では即座に現れにくいことが示唆された。都内には他にも多くの井戸や湧水があるため,さらに詳細な汚染実態解明を進める必要があると考える」と結論付けた。
また、2018年12月10日の沖縄タイムス紙に「米軍横田基地から2010年~17年の間にPFOSを含む泡消火剤が少なくとも3161リットル漏出していることが、米国情報公開制度で入手した記録により判明。漏出は日本側には通報されなかった。また同基地の内部文書では基地内の11の井戸から2016年に採取した自らPFOS/PFOA合計で35ng/Lだった」との報道があった。
筆者グループの東京都への情報開示請求であきらかになった事実では、東京都福祉保健局健康安全部は、この報道を受け、横田基地周辺のモニタリング井戸4か所と東京多摩地区の飲用井戸等57施設の水の検査を実施。2019年2月8日の同部の会議で、その結果が報告され、61施設中、アメリカの生涯健康勧告値を超えたのは8施設で、最大は立川市の横田基地モニタリング井戸であり、1340ng/Lが検出されていた。所在地は黒塗りされていたので不明だ。
東京多摩地域の地下水には、主に米軍横田基地で使用、廃棄された泡消火剤のPFASによる汚染がずっと続いていることは確かなようだ。
水道高濃度地域の住民血液検査で高濃度に検出
東京多摩地域は、地下水が豊富で多くの浄水所では、地元の地下水を取水し、東京都水道局の利根川水系の大規模な東村山浄水場から配水される水道水に混ぜて配水している。
東京都水道局は、2011年以降多摩地域の各浄水所の地下水のモニタリングを行いPFOS,PFOAの汚染を確認していた。ただそうしたデータは、一般公開はされていなかった。
そこで、筆者グループは、東京都に情報開示請求を行い、記録が残っている2011年以降のデータを調べた。すると多摩地区の一部の水道水では長年にわたり、基準値を超える水道水が配水されていたことが分かった。
特に濃度が高かったのが左図の府中市府中武蔵台浄水所と国分寺市被害恋ヶ窪浄水所であった。
そこで、国民会議は、府中武蔵台浄水所及び東恋ヶ窪浄水所の給水地域の住民の方々と協力して、血液検査を今年(2020年)8月30日に実施。
通常はこうした調査の場合、比較対象として、同数程度の汚染のない水道水を飲んできた人たちの血液も調べる必要があるのだが、今回は予算の限界もあり、あくまで予備的なパイロット調査として対照グループの調査は行わなかった。
何と比較したかというと、環境省が2011年から2015年にかけて実施した「化学物質の人へのばく露モニタリング調査」のデータを使った。
その結果が、右図だ。環境省調査の平均値と比較して、PFOSで1.5倍~2倍多い、という結果であった。
PFOAには、顕著な差はみられなかった。
その結果について、調査を主導した熊本学園大学中地重晴教(環境化学)は「検査数が少ないので、統計的にははっきり差があると断定はできない。ただ浄水器やペットボトルの水しか飲まない、と回答した人で、血液濃度が低い人も見られた。今後、より大規模な調査が実施されると、より明らかな差が出る可能性がある」と解説する。
ドイツでは、定期的な国民血液検査(バイオモニタリング)のデータと、有害影響が出る濃度をもとに、血中濃度の基準値を設定している。
この値を超えると健康影響の可能性があり、早急に暴露を低減する対策が求められる基準値が、PFOSで20 ng/mL 、PFOAで10ng/mL、と定められている。今回の調査結果では、22名中PFOSで5人、PFOAで1人の方がこの基準を超える値であった。
ドイツの基準では、妊娠中の母親と胎児を守るため、妊娠適齢期の女性に対する基準は、一般成人の半分となっている。今回の調査には、妊娠適齢期の女性はいなかったが、今後そうした人たちを対象にした追跡調査が望まれる。
実は、今回の調査では、PFAS汚染が終わらず、現在進行中であることも判明した。PFOS,PFOAの禁止に伴い、使われ始めた代替物質PFHxS(パーフルオロヘキサンスルホン酸)についても、実は今回血中濃度を測ったが、環境省調査の値の27~29倍と高い値を示したのだ。
PFOSの禁止に伴い、泡消火剤に使われる有機フッ素化合物がPFOSからPFHxSに代替され、人体内に蓄積される有機フッ素化合物もPFOS、PFOAからPFHxSへ変わったわけだ。
これでは、有機フッ素化合物汚染は終わったとは言えない。PFHxSの体内での半減期は、PFHxSで8.5年と、PFOS,PFOAよりも長い。
毒性も同様な影響が指摘されており、現在、POPs条約で、規制対象とする議論が行われている段階だ。
環境先進地域である欧州連合(EU)では2020年10月14日に「持続可能社会のための化学物質戦略」を発表し、その中で、すべての有機フッ素化合物を一つのグループとして基本的に使用禁止にする方針を固めた。
日本では、現在、化審法で規制されているのはPFOSとPFOAだけ。水道水の基準もPFOS,PFOAだけである。スウェーデンではPFOS,PFOA を含む 11 物質の合計値で規制をしている。
水道水の安全性「地下水利用の有無」がカギ
まだまだ終わりが見えない有機フッ素化合物汚染について、とりあえずの自己防衛の方法を以下で検討する。
飲料水汚染への対策としては、まずは自分が飲んでいる水道水がどこから来た水なのかを把握することが最初の一歩である。
有機フッ素化合物の主な排出源は、フッ素樹脂の製造加工の工場、泡消火剤を使っている軍事基地や空港、石油コンビナート、消防機関などだ。またこうした施設が近くにある下水道処理場や、廃棄物処理場も汚染源になりうる。
環境省のPFOSを含む泡消火剤の在庫調査では、2020年の段階でも、PFOSを含んだ泡消火剤が3,388,199リットル残っていることが分かっている。
こうした施設が近くにないか、をまずチェックする。
手っ取り早いのは、水道料金を払っている水道局へ電話をして、自宅の水道水がどこから取水されているのか?地下水は使われているか?を聞くことだ。
地下水が使われていた場合は、PFOS,PFOAの濃度はどの程度か?を聞く。前出のとおり、要監視項目に入ったため、データは、必ずある。
それで、汚染されている可能性があった場合の対策であるが、まず、有機フッ素化合物は、煮沸などの処理では消えない。消えるどころか、逆に煮詰めることで有機フッ素化合物の濃度は高まる。
当面の自衛策は浄水器の設置であるが、現在、明らかにPFOS,PFOAを安全に除去できる性能を示した浄水器は、日本では売られていない。
浄水器の有効性については、活性炭または逆浸透膜(RO)を使った浄水器では除去できる可能性がある。ただし、活性炭を使った浄水器の場合でも、決められた頻度で活性炭のカートリッジを交換しないと、活性炭に吸着した有機フッ素化合物が再度出てくる可能性があるので要注意だ。
米国の浄水器には有機フッ素化合物除去に関する規格基準が定められており、その規格基準をクリアした浄水器だけに「PFOS,PFOA除去」の表示が許されている。
そうした基準が日本にはないため、いちいち個別にメーカーに問合せをする必要があるのが現状だ。
ある浄水器メーカーに対する取材によれば「現在、家庭用品品質表示法で、浄水器の表示について改正されることになり、それに伴い、試験データのとり直しを検討している」とのことだ。それが来年の春くらいに終わり、PFOS,PFOAのデータもとる予定である、という。
つまり、来年春くらいには、PFOS,PFOA除去データを示した浄水器が出てくる可能性が高い。
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