世界初!ヒトの血液から微小のプラスチック片検出

マイクロプラスチック問題
人の血液からマイクロプラスチック 画像はhttps://www.thescientificteen.org/post/plastic-in-our-bloodより

週刊金曜日2022年04月15日号の記事を元に大幅修正加筆しました。

世界中で問題になっているプラスチック汚染。海を漂うプラスチックの問題から始まりましたが、プラスチックは細かく崩れ、魚や貝などの内臓に蓄積し、さらにそれを食べることで人体にも取り込まれます。最近の研究では、私たちが呼吸している空気や飲んでいる水の中にも微小の目に見えないサイズのプラスチック片が漂っていることが分かってきました。 

また日常で使う家庭用品や容器包装からも微小のプラスチック片が放出されていることも判明しています。使い捨ての紙コップにお湯を注ぐと、たった15分間で内側のラミネートから、蛍光顕微鏡で確認できるレベルでは、25000個のμm(マイクロメートル)サイズのプラスチック片が検出。さらにもっとサイズの小さい光学顕微鏡で確認できるnm(ナノメートル)サイズのプラスチック片2000万個以上検出されました。

また、お茶のティーバッグからも、お湯の中に116億個のμmサイズのプラスチック片と31億個のnmサイズのプラスチック片が放出されることが報告されています。そのプラスチック片が含まれるお茶の中にミジンコを入れると、プラスチックがミジンコの腸内に取り込まれ、遊泳行動にも影響を及ぼしたという研究もあります。

 日本でも筆者もかかわる市民団体「食の安全・監視市民委員会」が、みそ汁などのだしを取る時に使うだしパックの包装袋からのマイクロプラスチックの溶出検査を専門機関に分析依頼しました。その結果5商品中1商品から袋の素材であるPET樹脂とポリプロピレン樹脂が検出されたと発表しました。

自分で書いていても実感がわかないのですが、私たちはこれほど多くのプラスチックを毎日飲んでいることになります。コップはガラスで、お茶も急須で淹れていた時代にはなかったことです。

 さらにコロナ禍で常識となったマスクですが、マスクは大気中のウイルスなどの吸入を低減させるけれども、マスクのプラスチック繊維を吸入するリスクは上がります。もっとも、鼻で呼吸した場合その多くは鼻腔内の粘液で捕捉される可能性が高いのですが、口からは吸入する場合はそのまま吸収されてしまいます。

それぞれのばく露経路を通じで、私たちは1週間5g(クレジットカード1枚相当)くらいのプラスチックを食べているということになっています。問題はその食べたプラスチックの行方です。

22人中17人の血液中から検出

これまでは、口からプラスチックを食べてしまっても、それは腸からは吸収されず、便と一緒に排出されると思われてきました。問題はプラスチックにつかわれている添加剤で、それらの有害化学物質は消化管から吸収され、体内に取り込まれて悪影響を与えることが懸念されてきたわけです。

または、プラスチック片による腸内細菌叢への影響による有害性なども研究されてきました。便中のマイクロプラスチックが多いと潰瘍性大腸炎のリスクが増えるという疫学研究などです。

ただ一方で、赤ちゃんの胎盤からもマイクロプラスチックが検出されたという報告もあり、極々小さなサイズのプラスチックは、腸管から吸収され体内に取り込まれるのではないかと予想されていましたが、そのことを示すデータは存在しなかったのです。

今回、オランダのアムステルダム自由大学などのチームによる研究で、健康な被験者21人を対象に採血を行ない、血中のマイクロプラスチックを測定しました。対象としたプラスチックのサイズは、血液中のプラスチックを抽出するためのフィルターの孔径である700nm以上、採血する針の内径(0.514㎜)以下のサイズです。

調査対象としたプラスチックは、生産量の多いポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、そしてポリメタクリル酸メチル(PMMA)でした。PMMAは比較的生産量は少ないのですが、歯科治療など人体内部の用途に使用されているため選ばれたのだそうです。

その結果、22人中17人の血液中からプラスチックが検出されました。被験者毎の血液中のプラスチック濃度を示したのが右図です。22人中18人については同じ血液サンプルを2度測定し、血液中のプラスチック片の分布の均等性を調べました。一番多くの人から検出されたのはPETで、次いでPS、PE、PMMAの順で、PPはすべての被験者で検出限界以下でした。

濃度は、一番高かったのはPEで7.1μg/ml、次いでPSで4.8μg/ml、PETで2.4μg/mlでした。この研究の結果、肉眼では見えないサイズのプラスチック片が、血流を介して全身に移行する可能性があることが実証されたことになります。

人体への影響は未解明だが

 問題は、それがヒトの健康にどのように研究するのかですが、この点については、この論文の研究者たちは「これからの課題で、現段階では不明」だといいます。これらの血液中のプラスチック片が、どの程度体内にとどまるのか、血液脳関門を通って脳にまで行くのか、他の臓器に沈着するのか、プラスチック片のまま血液中を漂っているのか、免疫細胞によってとらえられているのか、などはまだ未解明のままです。

 ただ、別の動物実験では、マイクロサイズのポリスチレンをラットに投与した結果、ラットの脳で酸化ストレス反応により学習記憶力低下の影響が出たという研究も存在します。ヒト細胞を使った実験でも、10 μg/mlの濃度に細胞をさらすことで、細胞生存率に悪影響を及ぼしたという研究もあります。

 ヒトの血液中を駆け回っているプラスチック片がどのような健康影響を及ぼすのか、今後の研究の進展が期待されます。それらが明らかになるまでは、使い捨ての紙コップ(内側にプラスチックコーティングあり)や、使い捨てのプラスチック製品の使用はできる限り控え、出汁やお茶もバックを使わないよう工夫し、マスクは現状仕方がないので、できるだけ鼻で呼吸をするといった工夫をして、マイクロプラスチックが体に入らないように気を付けておいた方が良いでしょう。

出典)Heather A.et al.Discovery and quantification of plastic particle pollution in human blood,Environment International, 2022, 107199

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