解説)アメリカでの最大のPFAS汚染サイトの一つがノースカロライナ州のケーブフィアリバー流域です。デュポン社の子会社ケマーズが数十年にわたりPFOAや代替物のGenXというPFASを垂れ流し続けたことで流域住民の水道水汚染が進行。現在集団訴訟が係争中です。そのケーブフィアリバーで、新生児を亡くしたことを契機にNPO組織「North Carolina Stop GenX in Our Water」を立ち上げたベス・マーケジーノさんと、PFAS研究の第一人者である元国立環境健康科学研究所の前所長リンダ・バーンバウム博士を取材した、テレビニュース番組the National Deskの動画と記事を紹介します。2022年11月段階でのアメリカでのPFAS汚染の状況がとても分かりやすくまとめられています。下記のなんちゃって日本語訳付き動画と、その下の記事の日本語訳(翻訳植田)を読んでみてください。
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この動画のもとの記事のページがこちら。その記事を日本語に訳しました。
独自の検査で、アメリカの水道水に有毒な「永遠」の化学物質が含まれていることが判明
by LISA FLETCHER, ANDREA NEJMAN, ALEX BRAUER and LARRY DEAL|スポットライト・オン・アメリカ 2022年11月22日(火)
ワシントン(SBG)- 有害な「永遠」の化学物質が、アメリカ人が毎日飲む水にしみ込んでいます。これらの化学物質が健康に及ぼす潜在的な影響について知れば知るほど、問題はより深刻になります。米環境保護庁(EPA)が有機フッ素化合物(PFAS)汚染を抑制するために大胆な措置を取る中、Spotlight on Americaは一連の独自のラボテストを実施し、アメリカの水道システムの汚染がどれほど広範囲に及んでいるかを明らかにしました。
PFAS問題
目に見えず、味もしませんが、飲料水には12,000以上の化学物質が潜んでいて、先天異常からがんまであらゆる病気の原因となっている可能性があります。PFASとは、Per- and Polyfluoroalkyl Substancesの略で、決して分解されることなく、血液や臓器に蓄積され、何百万人もの健康を損なう危険な人工毒物として広く知られています。
PFASは、1940年代にデュポン社がこの化学物質を使用してテフロン加工したノンスティック調理器具を発売したことに端を発します。その後、3MがPFASを含む製品の主要メーカーとなり、焦げ付きにくく、汚れをはじき、防水性があることを売り物にするようになりました。そして、現在も進行中の公衆衛生上の危機の一因となったのです。PFASは耐久性に優れ、分解されることがありません。環境から排除することがほぼ不可能なため、しばしば「永遠の化学物質」と呼ばれます。また、さまざまな経路で体内に蓄積されます。
PFASは、私たちの生活のいたるところに存在しています。最近では、ベビー服やドッグフードのパッケージから発見されたほか、化粧品やこげつきにくい調理器具、デンタルフロスなどにも含まれていることが知られています。
PFASは、汚染された食品を食べる、PFASを含む空気を吸う、PFASで汚染された水を飲むなど、さまざまな形で人体に影響を与える可能性があります。
現在は飲料水に注目が集まっています。PFASを含む泡消火剤の長期使用により、産業廃棄物、埋立地、空港や軍事基地など、さまざまな場所からこれらの有害化学物質が水源に浸透し、地下水に溶け出していることが、全国の様々な地域で分かってきているからです。
PFASへのばく露に伴う健康リスクに関しては、新たな科学的知見が得られています。EPAによると、専門家による研究により、一定レベルのPFASにさらされると以下のような影響が出る可能性があることが示されています。
・生殖への影響。妊娠中の女性における生殖能力の低下や高血圧の増加など
・子ども発達の遅れや悪影響。低出生体重児、思春期早発症、骨の変化、行動の変化など
・がんのリスクの増加。前立腺がん、腎臓がん、精巣がんなど、
・ワクチン反応の低下など、感染と戦うための身体の免疫システムの能力低下。
・体内の自然なホルモンを阻害する。
・コレステロール値の上昇および/または肥満のリスク。
子どもは成長過程にあるため、PFASの有害な影響に対してより敏感であると考えられています。EPAによると、PFAS生産施設の近くに住んでいる人など、PFASへのばく露量が多い人がいます。妊娠中や授乳中の女性は、一般の人よりも水を飲む量が多い傾向があり、その結果、水中にPFASが存在する場合、PFASへのばく露量が多くなる可能性があります。
連邦政府の保健当局は現在、12,000種類あるPFASのうち、ほんの一握りの化学物質に注目しています。そして、この夏、安全とみなされるレベルを大幅に引き下げることを提案しました。PFAS化学物質の一つであるPFOAのレベルは、かつて安全とされていたレベルは70ppt(1兆分の1)でした。しかし今、EPAはその値を0.004pptまで下げることを提案しており、これは99.99%以上の削減となります。
そこで、私たちは飲料水に関する新たなデータを取得することにしました。
独自の水道水検査
EPA(米国環境保護庁)がPFASの見直しを進め、水中のPFAS濃度をより厳しく制限する案を作成する中、科学界では米国の飲料水源がどれほど汚染されているのかに関心が高まっています。
そこで、私たちは、郊外の家庭や都市の企業、政府機関に至るまで、水道の蛇口から出る水をテストすることにしました。
メリーランド州、バージニア州、ワシントンDCの11カ所で、連邦議会議事堂や環境保護庁のロビー内などからサンプルを採取しました。
この検査は、18種類のPFAS化学物質の検査資格を持つ、全米でも数少ない専門検査機関のひとつであるSuburban Labsに送りました。
その結果、3分の1以上のサンプルからPFOA(パーフルオロオクタン酸)が検出され、専門家の間ではPFASの中で最も深刻な化学物質と見なされています。バージニア州郊外の家庭で行った2つの検査では、PFOAの濃度は、EPAが提案する0.004pptという勧告レベルの1200倍以上にもなっていました。
この勧告レベルは、ppt(1兆分の1)の濃度で測定され、特定の期間において健康への悪影響が予測されないとEPAが考える値です。EPAは、その健康勧告レベルは、”飲料水中の汚染物質に生涯にわたってさらされることによって生じる健康への悪影響から人々を守る “ために設定されていると述べています。
従来のレベルである70pptは、より低い検出が不可能で、PFOAとPFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸)についてあまり知られていなかった時代の時代遅れのモデルに基づいていると科学者は言っています。EPAの提案した0.004pptという数値に基づく、新たな劇的に低い基準値が、今後数カ月のうちに決まると予想されています。
私たちは、この調査結果をより深く理解するために、毒物学者でありPFASの専門家であるリンダ・バーンバウム博士のもとへ持ち込みました。彼女は、国立環境健康科学研究所の前所長であり、EPAで19年間、環境健康研究の最大の部門を指揮してきました。
PFASの化学物質は12,000種類以上ありますが、研究所で検査できるのはそのごく一部に過ぎません。しかも、PFASの危険性については、常に新しいデータが出てきています。検査結果を確認したバーンバウム博士に、何が最も問題なのかを尋ねました。
「PFASはどこにでも存在します。」「このような化学物質が、基本的にどこにでもあることです。1つの化学物質だけでなく、複数の化学物質が、ほとんどすべてのサンプルに含まれているのです。レベルが低いことは良いニュースですが、存在しているのです」
私たちが検出した化学物質のうち、おそらく彼女が最も懸念していたのは、PFHxS〈パーフルオロヘキサンスルホン酸〉と呼ばれるものです。メリーランド州の2軒の家庭の水道水から検出されたました。「PFHxSは、PFOSやPFOAと同じくらい有害で、体内に長く留まるという動物や人間のデータが増えつつあるからです」とバーンバウム博士は言います。
議事堂やEPAのビルを含め、ほぼすべてのサンプルから見つかったもうひとつのPFASは、PFHxA〈パーフルオロヘキサン酸〉と呼ばれるものです。これはPFASの大規模なサブセットで、米国では禁止されていませんが、欧州連合ではそのすべての用途に規制がかかりそうな状況です。欧州化学物質庁のリスクアセスメント委員会は、PFHxAの環境中での残留性と人間の生殖系への有害な影響から、最近そのような規制を支持しました。最近の研究では、PFHxAとその他のPFASが母乳に含まれていることが判明しています。
EWG(環境ワーキンググループ)による2020年の研究では、31州44地点の水道水を採取したところ、すべての州とコロンビア特別区で、水道水からPFASが検出されました。我々が行った検査と同様に、検出された各サンプルには6~7種類のPFAS化合物が含まれていました。
汚染地域での悲劇
ベス・マーケジーノは、マラソンのトレーニングのために毎日3マイル(4.8km)を走っていました。そしてノースカロライナ州ウィルミントンの自宅の水道水を大量に飲んでいました。
まさか自分が飲んでいる水がPFASで汚染されているとは、彼女は想像もしていませんでした。
そんな彼女の家族を悲劇が襲いました。6年前ベスの息子サミュエルが生後間もなく亡くなったのです。腎臓や膀胱の発育が悪く、PFASへのばく露と関係があるとする研究結果もあります。ベスは、飲料水に含まれる化学物質がサミュエルの死と関係していると考えています。
医師はサミュエルの遺伝子検査を行いましたが、遺伝的要因の中には致命的な先天異常の原因となる要素は見つからなかったと、彼女は言います。
一方、科学者やジャーナリストは、ノースカロライナ州ウィルミントン地域の30万人以上に飲料水を供給しているケープ・フィア川に、大量のPFAS化学物質が投棄されていたことを明らかにしました。
「私は科学者ではありません。家にいる母親です」「でも、きれいだと思って飲んでいた水が、有毒で化学物質だらけだと知って、家にいる母親として腹が立ったんです」
ベスは、科学者たちが、地域社会への介入、水処理施設の改善、汚染者の責任を問う訴訟など、人々の意識を高め、行動を起こすきっかけとなるような活動をしたことを評価している。
「PFASは胎盤から胎児に移行します、私の息子に起こったことです」と彼女は言いました。「私はいつも頭の片隅にその疑問があったのですが、科学者たちのこのような研究のおかげで、地域住民にこれらの化学物質の健康への影響を知らせることができるようになったのです」
集団訴訟によると、PFAS化学物質のメーカーであるデュポン社の子会社であるケマーズ社は、GenX、PFOS、PFOAのような有害化学物質を「故意に、無謀に、過失で」何十年も川に流出させていました。
キャリー対デュポン 訴状20171023 by Manny Fantis on Scribd
この訴訟では、原告は次のように主張しています。
・投棄の影響を受けた4つの郡は、米国で最も肝臓疾患が集中していることがデータで示されている
・ニューハノーバー郡の肝臓がんと精巣がんの発生率は州平均よりかなり高いこと
ベス・マルケジーノを含むこの訴訟は、まだ係争中です。
その間、彼女は行動を起こし、PFASの医療モニタリングを可能にする「サミュエル法」と呼ばれる法案に取り組んでいます。彼女は、この法律を州レベルで提案する予定だと話してくれましたが、連邦レベルでも制定されることを望んでいます。
ベスはNorth Carolina Stop GenX in Our Waterという非営利団体を設立し、GenX などのPFASを投棄した汚染者の責任を追及し、意識を高めることに重点を置いています。現在Facebookに7,000人の会員を擁しています。
彼女はSpotlight on Americaに、「私たちは、彼らが引き起こした有害な影響の代償を払う必要はないはずです」と語りました。「彼らは私たちの水に毒を入れることで利益を得てきたのです」
しかし、今のところ、納税者が彼らの汚染のツケを払っている状態が続いています。最近、きれいな水を確保するために、浄水場のフィルターに4300万ドルを費やしました。ベスは、政府機関への信頼が崩れたため、自宅の流しの下にも浄水器を取り付けたと言います。
低所得者層は浄水器を買う余裕がないかもしれませんし、他の地域ではPFAS汚染について知らないかもしれないし、対策を講じる手段もないかもしれない、と彼女は危惧しています。
「放置され、無視されている地域には大きな格差があり、そのような人々の声に耳を傾け、支援する必要があるのです」とベスは語りました。
私たちは、全米に汚染された地域があることを知りました。
全米で起きている問題
全米で2億人のアメリカ人が化学物質で汚染された水を飲んでいると推定され、人口の98%の血液からPFASが検出されました。
リンダ・バーンバウム博士は、このような懸念がある地域を特定するための画期的な研究に参加しました。
彼女の研究は、PFAS化学物質が高濃度で存在する可能性が高いコミュニティをマッピングしました。
推定される汚染サイトの総数は57,412で、内訳は以下の通りです。
・49,145の産業施設
・4,255の廃水処理場
・3.493の現・旧軍事施設
・519の主要空港
どの州にも複数のサイトがあり、北東部はほぼ完全に埋もれてしまいました。
バーンバウム博士の研究は、このテーマにおけるパイオニア的存在です。現在、飲料水中のPFASに関する連邦政府の規制はなく、検査も義務づけられていない。
11月中旬の時点で、飲料水中のPFASに関するガイダンスや規制値を制定している州は半数以下であり、水道水に含まれているかどうかは、住んでいる場所によって異なる可能性が高いです。
EPAはSpotlight on Americaの取材に対し、来年末までに強制力のあるPFASの規制値を設定する予定であると言っています。
あなたにできること
飲料水中のPFASに関するEPAの取り組みは一朝一夕には完了しませんが、その間にも、汚染された水を飲んでいる可能性のある家庭には大きな懸念があります。
スポットライト・オン・アメリカの実施した追加テストでは、全米で購入された約22種類のトップブランドのボトルウォーターを調べました。アメリカのボトルウォーターは、自然の湧き水や水道水など、さまざまな方法で調達されているため、ろ過の過程でPFASが除去されているかどうかを確認したいと考えました。
以下のブランドから複数のサンプルを採取し、検査を行いました。
どのサンプルもPFASは検出されず、水道水よりボトルウォーターの方が安全であることが示唆されました。
EPAは、飲料水中のこれらの化学物質の濃度が健康勧告レベルを超えていることのみを理由にしてボトル入りの水に変えることは推奨していません。その代わりに、PFASが検出された地域や水道施設に対して、処理技術の導入や新しい飲料水源を見つけるなどの対応を検討するよう求めています。
ご家庭にろ過装置がある場合、それがPFASの除去に有効かどうか気になる方もいらっしゃるかもしれません。
歴史的に、PURとBritaなどのピッチャー型の活性炭の浄水器は、鉛、塩素、水銀の除去に重点を置いてきました。どちらの会社のウェブサイトでもPFASを除去することを謳っていませんが、私たちはサンプルに違いがあるかどうかテストしてみました。
また、採取した水道水のサンプルはすべて、ブリタとPURのピッチャー型浄水器にかけ、テストを行いました。ブリタの浄水ピッチャーモデルOB03とPURの浄水ピッチャーとディスペンサーの化学的・機械的還元ユニットモデルCR-1100Cを使いました。ブリタとPURを比較した場合、結果は一貫していませんでした。しかし、どのケースでも、両ブランドはPFASの汚染レベルを低下させました。いくつかのケースでは、化学物質を検出可能なレベル以下にまで下げましたが、毎回ではありません。一般的に、水道水中のPFASのレベルが高ければ高いほど、フィルターが化学物質を検出可能なレベル以下にまで低減できる可能性は低くなることがわかりました。
バーンバウム博士は、一般的に、ろ過は良いステップであるが、消費者はフィルターの交換に用心する必要があると言います。
「消費者はメーカーの指示に従ってフィルターを交換する必要があります」とバーンバウム博士は言います。”もし、交換時期を過ぎてもフィルターを変更しない場合は、フィルタに蓄積されたPFASが浸出し始め飲料水に入るかもしれません。” バーンバウムは言います。
あなたの水にPFASが含まれているかどうか調べたいですか?国立衛生研究所(NIH)は、55種類のPFAS化学物質を測定できる水質検査システムを提供するCyclopureという会社に資金援助しています。NIHは、これを「全米の家庭に水質情報を提供する手頃な方法」と呼んでいます。Cyclopureは、41の州で1,000以上の水サンプルをテストしており、ユーザーは10日以内に正確な結果を得ることができると言います。
(1テスト79ドル(11,000円程度)で販売されているようです。訳者注)
Cyclopureのラボは認証を受けていないため、結果は情報提供のみで、政府機関には受理されないことに消費者は注意しなければなりません。
Cyclopure社は今春、PFOA、PFOS、GenXなどの化学物質を除去するなど、水からPFASを除去するブリタピッチャー用フィルターを開発したと発表し、来年発売予定の蛇口取り付け型と冷蔵庫用フィルターに取り組んでいます。
また、ミシガン州フリントの水危機から生まれたハイドロヴィヴのように、購入者の住む街の最新の水質データに基づいてフィルターを最適化し、PFASや危険な重金属を除去すると主張する企業もあります。
PFASには様々な原因があり、体内に蓄積されることを念頭に置いて、水中のPFASを減らすことは、自分の身を守るための一つの方法です。
リンダ・バーンバウム博士は、PFASを含む消費者製品を選ぶ際には、情報を入手し、優先順位をつけることが重要であると語っています。「私たちは、疑問を持つことから始めなければならないと思います。本当に必要なものは何なのか?ハイキングブーツは、汚れがつきにくく、撥水性のあるものでなければならないのでしょうか?例えば、デンタルフロスやトイレットペーパー、化粧品にPFASが含まれている必要があるのでしょうか?そういったことから、私たちは選択を始めることができるのです」
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